ひとりで山に入る日の朝、ザックの前で、いつも小さな対話が始まります。
「これは持っていくべきかな」「いや、重くなるかも」「でも、もしもの時は…」
そんなふうに気持ちが行ったり来たりするとき、僕はいつも母の一句を思い出します。
高校の山岳部で合宿に出かける前、荷物と向き合う僕を見て、俳人の母が詠んだ句です。
何ひとつ 無駄のなきとは 登山の荷

全国俳句大会で特選に選ばれた句で、選者の稲畑汀子さんの講評には 「必要なものを揃えるとき、無駄なものは何一つないという緊張感が想像される」 とありました。
あれから長い時間が経ちましたが、山に入る前の僕は今でもこの句に背筋を伸ばされます。
“無駄がない”とは、ただ荷物を減らすことではなく、 迷わず使えるものだけを選ぶこと。
そして、遭難したとしても、救助を待つだけでなく自力で下山できる可能性を少しでも上げること。
今回まとめるのは、そんな僕の装備選びの基準です。
キーワードは 「汎用性」と「直観性」。 そしてもうひとつ、「これがあれば、自力下山の可能性が上がるか?」 という問いです。
命に直結する「削れない3つ」
① 設営不要の簡易シェルター(ツェルト類)

ソロ登山で最も怖いのは、
ケガやタイムオーバーによる行動不能、そして 道迷い。
そんな時に命をつなぐのが、簡易シェルター(ツェルト)です。
でもツェルトと聞くと「設営が難しそう」と身構える方も多いですが、
実は初心者でも扱いやすい“設営不要タイプ”が色々と出ているんです。
僕の愛用品は、ファイントラック「ピコシェルター」。
ザックごと包み込み、中央のベンチレーションから頭を出せばポンチョのように歩ける。
上部の2点を立ち木などに固定すれば一晩過ごすにも安定のシェルターになり、
透湿性が高く、内部が結露しにくい点が優れモノです。
ほかにも、
など、軽量で扱いやすいモデルが揃っています。実際に登山用品店で触れてみることをお勧めします。

選ぶポイントは“透湿性”
軽さや大きさも重要ですが、緊急時ほど、内部の結露が体温を奪います。その意味でおススメはピコシェルターとエスケープヴィヴィです。
② ヘッドランプ(+サブ)

日帰りでも、トラブルがあれば下山は夕暮れに、最悪日没に間に合わない場合も。
僕はメインとは別に、モンベル「コンパクトマルチランプ」をサブとして必ず持っていきます。
手首・ストック・ザックなど、どこにでも付けられる“直観的な使いやすさ”。
軽くて汎用性が高く、実はメインより出番が多いほどです。
サブライトがあるだけで、 「暗くなる前に急がなきゃ」という焦りが消え、 結果として落ち着いた判断ができるようになります。

③ 救急セット(+サムスプリント)

基本の救急セットに加えて、ぜひ入れてほしいのが サムスプリント と テーピングサポーター。サムスプリントは捻挫や骨折の際、副木として患部の固定に使え、またテーピングサポーターは三角巾のように結ばなくてもぐるっと巻いて留めるだけで固定したり圧迫することが可能。直観的だし、なにより一人でできて、調整も簡単。ソロ登山では、この点がとても大きい。


さらに夏なら ポイズンリムーバー も持っておきたい道具です。 ハチに刺される可能性はたとえ低くても、ソロ登山であれば、周囲に誰もいない前提で“動けなくなるリスク”を少しでも減らすための大切な装備だからです。

サムスプリントやポイズンリムーバーは事前にYouTubeなどを見て
練習しておくことが必要
絆創膏や消毒液は劣化するので、
季節の変わり目には点検を!
自力下山の可能性を上げる、汎用の道具
④ リペアキットの核は「布ガムテープ」

登山の教本にはいざという時のリペアキットについて「いろいろなアイテムを少しずつ持っておくとよい」と書かれていることが多い。 でも実際の現場で、切羽詰まった緊急時にそれらを使い分けられるか?というと、少し疑問に思うことがあります。
そこで、僕はここでもやはり「汎用性」と「直観性」の高い道具を取捨選択して携行することを続けています。
これまで様々な場所で色々な危ない事態にも遭遇してきましたが、幸い大きなトラブルには至っていません。
そんな取捨選択してきたリペアキットの代表が布ガムテープ です。
主な使い道をざっとあげると・・・
- レインウェアやツェルトの補修
- 靴底が剥がれた時の応急処置
- サムスプリントの固定(ただし直接貼らない)
- +ガーゼや布で傷口の圧迫
- 緊急時には着火剤としても使える、しかも少々の雨でも可能
刃物不要で使えるので使い勝手としても◎。
ここに 結束バンド と 細引き(3mm×5m程度) を加えれば、 さらに様々なトラブルに対応できます。
「あるものでなんとかする」 その力を最大限に引き出してくれるのが、この3つです。
まとめ
ソロで山に入るということは、静けさと自由を味わう代わりに、 自分の身を守る責任をすべて引き受けるということ。
だからこそ、装備は多ければ良いのではなく、 「迷わず使えるか」 「ひとつで何役もこなせるか」 この2つが、いざという時の生死を分けると感じています。
次は、ソロ登山における ウェア と 食料&飲料 の装備術についてまとめたいと思います。
こちらもご覧ください 「ととのう、ソロ登山教室」



