この夏、ガイドになって初めて富士山をご案内することになりました。 下見を含めて登った回数は計4回。案内させていただいたのは次の3組でした。
1組目:ご家族(6名様)
2組目:大手ツアー会社のお客様(19名)※ガイド2名&添乗員のうちのサブガイドとして
3組目:外国人ツアー客(29名様)※ガイド4名のうちの1名として
いずれもコースは富士宮口から登る通称プリンスルートとよばれるコースをご案内しました。宝永火口のダイナミックな火口を横切り、御殿場ルートへ合流。七合五勺の「砂走館」で一泊し、山頂へ。下山は富士山名物「砂走り」を一気に下る!とても変化に富んだルートで、個人的には吉田ルートよりも好きなコースですが…若干、難易度は高めで、実際、事故やトラブルが多く報道されるのもなぜか富士宮ルートだったりします。

まずは開山直後、7月2週目に下見を兼ねて日帰りで登ってみました。
順調に登頂し、巨大なお釜を久しぶりに拝むことができたのです、が・・・登っている間の天候変化は目まぐるしいもので、晴れたと思ったら急に濃い雲に覆われ、ちょっと強めの風が吹く。 気温差はそんなに大きくありませんでしたが、「富士山の気象変化の激しさ」と「こまめな衣服調整(レイヤリング)の重要性」を改めて実感しました。
ということで、今回は富士山をガイドして気づいた「富士山のリアル」を、これから目指す方へをお届けしたいと思います。

梅雨明け前の雨と「経年劣化」の落とし穴(1組目)
7月3週目、関東は梅雨明け前でしたが、昨年の夏に依頼を受けていたご家族6名をプライベートガイドとしてご案内しました。
初日、後半はすこし小雨に降られるも、宝永火口の迫力にみなさん感動しながら小屋まで無事到達。ところが夕方過ぎから雨になり、夕食後は本降りに・・・。そのまま出発予定の午前1時を迎えてしまいました。


降りしきる雨、夜明け前の暗闇の中で出発するかどうかギリギリまで迷ったのですが…雨雲レーダーでは午前3時過ぎに雨雲が通過する予報が…。それを信じて小屋を出発。ゆっくり山頂を目指しました。
雨はときおりザーっと勢いよく降るものの、幸い風はなく、家族で励ましあいながら、予定時間より早めになんとか山頂へ到着。ところがそんな中でハプニングが2つ起きていました。
登山靴のソール(靴底)が突然剥がれる
山頂まであと少しのところで、家族の内の一人の登山靴のソールが突然、はがれてしまいました。実は履いていたのは「新古品」で購入された靴でした。有名ブランドの、見た目は新品同様でも、経年劣化で接着剤が弱まっていたのです。応急処置(結束バンドやテーピング)で凌ぎましたが、非常に危険な状態でした。
雨がレインウェアの限界を越える
山頂には到達したものの、家族の内の何人かのレインウェアが浸水を防ぎきれず、服の中まで濡れて体温が奪われていました。急きょツェルトで簡易的な屋根をつくり、その中で濡れた服を着替えていただきました。
午前4時前だったので、雨宿りが出来る場所もなく、「このまま滞在するのは危険」と判断、日の出を待たずに下山して小屋に戻ることにしました。小屋に戻ると、天気は回復し、山頂を見上げると晴れ間が広がっていました・・・。

ガイドの反省
「山頂でのご来光」にこだわりすぎず、小屋で雨がやむのをまってから出発していれば、少なくとも回復した晴天の火口だけは安全に見ていただけたはずでした。そんな柔軟なプランを提案できなかったのは大きな反省点です。
大手ツアー会社の宿命と「強風」の壁(2組目)
7月最終週、梅雨明け直後にご案内した2組目は、大手ツアー会社が募集した19名のお客様でした。
朝8時に東京駅をバスで出発。途中、三島駅から関西方面からのお客様もピックアップして、富士宮5合目の駐車場へ。アクセスの楽さはツアー会社ならではのもの。でも難点は、そういったスケジュールの関係上、一番天気が急変しやすい「お昼過ぎ」の登山開始になることでした。

案の定、15時過ぎ、宝永山付近からモクモクと雲が湧き、風速7〜8mの強風と小雨に、70代のご夫婦が遅れ始めたので、マンツーマンでサポートさせていただきました。富士登山に向けて準備も重ねられてきたというご夫婦でしたが、富士山特有の歩きにくい火山礫と高度、それに強風に苦戦されていました。それでもなんとか何とか日没までには小屋に到着、疲労困憊されていましたが夕食のカレーも召し上がってお休みに。しかしその夜、予報通りだったのですが、富士山に暴風が吹き荒れました。出発予定の午前1時になっても風は収まらず(おそらく風速10mほど)、体力的な不安を抱えるお客様の安全を第一に考え、メインのガイドと相談して山頂行きを断念する苦渋の決断をすることになりました。
ツアー会社の富士登山は…
・アクセスはとても楽、小屋の手配なども不要
・一方で、スケジュールやバスの時間がなかなか動かせない
・個人の体調や天候にあわせた柔軟な時間調整が難しい
結果として小屋の前からご来光となりましたが、それはそれで息をのむ美しさでした。しかし大人数のツアーならではの難しさを痛感したガイド体験でもありました。

世界の山を歩いた強者たちも苦戦? 快晴のインバウンドツアー(3組目)
3組目は先輩ガイドからの応援要請で加わった海外からのツアーのお客様29名(ガイド4名体制でご案内)。
言葉の壁を少し心配していましたが、実際にはあまり問題なく、何よりも過去2回の中で1番の好天に恵まれた素晴らしい山行となりました。


参加された皆さんは世界各地の様々なトレッキングコースを経験されてきたメンバーとのこと。ですが、そんな皆さんでも富士山特有の“試練”に直面することになります。それは「下山時の脚の痛み」でした。
富士山特有の長い斜面、特に“砂走り”コースは何時間も同じ姿勢、同じ動作を繰り返すことになります。特に筋力が衰えてくる年配層の方々を中心に、膝や股関節へのダメージを訴える方が続出しました。

富士山で一番キツイ?「下山」を乗り切るコツ
1組目、2組目、そして海外の強者が集まった3組目でも同様に、多くの方が悲鳴を上げていたのが「下山時の膝や股関節の痛み」です。富士山で地味に、そして確実に足腰を削ってくるのが、この「下り」の区間です。
ガイドが実践している「下り方」のコツ
長い富士山の下りを、なるべく疲れず、痛みを起こさせないようにするために、私が実践しているのは「単にまっすぐ下りるのではなく、使う筋肉の部位を分散させる」ことです。
・つま先と体の方向を斜めに変える
つま先をずっと下(進行方向)に向け続けるのではなく、交互に、少し斜めに向けながら下りることで、太腿やふくらはぎの使う筋肉の部位が変わり、局所的な疲労を防ぐことが出来ます。
・ジグザグ・小股で歩く
体の向きを左右に小刻みに変えつつ、少しでも斜度の緩いラインを選び、小股で下りていく。
これを意識して実践してただけるだけで、「膝の痛みがラクになった!」というお客様がたくさんいらっしゃいました。是非試してみてください!

これから富士山を目指す方へ
3回のガイドを経て改めて驚いたのは「他の山には登らないけど、富士山だけは登りたい」という初心者の多さです。一生に一度の挑戦はとても素晴らしいことです!だからこそ知ってほしい。富士山は日本で一番標高が高い山であるだけではなく、難易度も決して低くない、難しい部類に入る山という事実を。
装備は「たまたま」に頼らないで
「町中で使用するポンチョでも登れた」「スニーカーでも行けちゃった」という声を聞くことがあります。ですが、それはたまたま天気が良かっただけの幸運にすぎません。今回、私が3回ガイドでご案内して、山頂でご来光が見られたのはたった1回です。私のガイドとしての経験不足の面もあると思いますが、富士山は決して登頂率が高い山ではないと感じました。あたりまえなのですが、①適切な装備 ②十分な体力 があって初めてチャレンジできる山なんです。
登山靴
ソールがしっかりしたもの。「新古品」や「未使用だが数年保管していた」ような靴は接着剤の経年劣化でソールが剥がれる可能性が大です!
レインウェア
上下セパレートタイプで、防水はもちろん透湿性素材(Gore-Tex)も必須。登山用ではないものだと富士山の雨と風に は耐えきれないと思います。
過酷な環境下で2ヶ月ほどの開山期間を命がけで切り盛りされている山小屋の皆様への感謝を忘れず、富士山で発生する不幸な事故が一つでも減ることを祈ってやみません。
万全の準備をして挑めば、生涯忘れられない景色に出会えます。
そして私、Vegも、今年の経験を活かして、来年はより“安全”で“楽しめる” 富士山登山のガイドが出来るよう準備していきたいと思っています。



