“自分ペース”を見つける山旅へ
梅雨明けの強い日差しの中、東京・奥多摩で「50歳からのゆっくり登山教室」を開催しました。 参加者はみなさん初心者ながらも高尾山や大山(丹沢)など人気の山は経験済み。それでも事前のヒアリングでは「歩くペースがわからず、後半でバテてしまう」という声が多く寄せられていました。
そこで今回はツアーの様子とともに、初心者の方に向けて “山登りのペース”についてのヒント をまとめてみたいと思います。

集合~歩き出す前に、ひと呼吸
御嶽駅集合は朝7時半。 バスもケーブルカーもほぼ満員で、山上には多くの登山者が集まっていました。
登山に慣れない頃は、この“スタート前”の間に焦りが出がちです。というのも、周りの登山者のテキパキした動きを見て、「自分はゆっくりしていて大丈夫だろうか…」 と不安になり、歩き始めるとついつい早足に・・・。 これが、後半の疲れにつながってしまうのです。
そこで今回は、ケーブルカーを降りた集団から少し離れた場所で一休みし、 自己紹介やルートの話をしながら、ゆっくりと準備を整えました。
こうして歩き出す前に、ちょっとだけ余白をつくる、それだけでも、その後の歩き出しが自然と“自分のペース”に戻って行くんです。人は人、自分は自分…! 周りを見て焦らない、これが出発前の大切なポイントです。

歩き始めは、ゆっくりでいい
御岳山は古くから山岳信仰の地。 宿坊街や商店街をゆっくり歩いていくと、 御嶽神社の随身門が現れます。
門の下には、気持ちの良い風がサッと通り抜ける場所があり、 まるで山が「ようこそ」と迎えてくれているようです。
そしてこれは以前の「三頭山」の報告の際にも書いたのですが、歩き始めは超スローペースで十分です。できれば最初は 20~30分ごとに立ち止まり、2~3分間、立ったままでもいいので休憩する。これを繰り返しながら、徐々に休憩までのインターバルを開けていき、最終的には 1時間歩いたら休憩5~10分ぐらいののペースにもっていく。出だしはとにかく“超スローペース”で、この時間が、体を整える準備運動にもなります。
皆さんにそれを伝えると「ある程度のスピードで登ったほうが疲れないのかと思っていた」ので「ペースは自分で決めていいんだって知らなかった!!」「これからは“ゆっくり楽しむ登山”が出来そうです!」とうれしい声をいただきました。

下りは膝にやさしく、余白を楽しむために地図を読む
最初の目的地は七代の滝。 ここでは一気に150mほど斜面を下ります。
そこで大切なのが、下りで膝にやさしい歩き方。
ポイントは、つま先と体を真下ではなく、やや斜め下に向けること。そうすることで、自然と小股になり、膝への衝撃が小さくなり、また滑りにくくもなります。同じ向きで歩き続けると疲れるので、適当に左右を入れ替えながら下ると、より 膝への負担が少なく、疲れにくい歩き方になります。 ここにストックを合わせると、さらに安定します。

最初はぎこちなかった足取りも、徐々に慣れ、「意外と楽に下れて驚いた」という声が上がりました。
七代の滝の周りには、これからが旬のイワタバコの花が咲いていました。皆さん思い思いに 写真を撮ったり、水に触れたり、甘いものを補給したり── それぞれが気持ちの良い時間を過ごしました。

実は今回の教室で大切にしたかったのは、こうした “余白を楽しむ山歩き” です。
深呼吸したくなる森の匂い、 光の揺れ、 沢の音。 こうした余白は、山歩きの豊かさそのものです。
ただ、この余白は 人についていく登山では生まれません。
前の人のペースに合わせて歩くと、 呼吸や歩幅が乱れ、立ち止まりたい時に止まれない。 景色を味わう余裕もなくなってしまいます。
余白を楽しむためには、まず 自分の現在地を知ること が大切です。
- 今の体力でどれくらい歩けるか
- どのペースが心地よいか
- どこで疲れやすいか
そしてもうひとつ、 現在地やコースタイムを頭に入れておくこと。
「このペースで歩けば大丈夫」 「ここで少し休んでも間に合う」 という安心が生まれます。
安心があるからこそ、立ち止まる余白が生まれ、 森の匂いや風の変化に気づけるようになります。
今回のツアーでは、何度か立ち止まり、 アプリや地図を使って現在地を確認する時間をつくりました。 一度で習得するのは難しい技術ですが、 この作業の延長に“余白を楽しむ時間”が待っています。
Vegが思う「ガイドの役割」は、この作業をお客様の代わりに行うことで、お客様に「安心感を持っていただき」、 たっぷり「余白を楽しんでいただくこと」だったりします。


マイペースがあれば、難所も越えられる
ロックガーデンを抜けると、 キビタキやヒグラシの声が響く斜面が続きます。
鍋割山を越え、奥の院まであと10mのところで、 この日一番の難所である岩場が現れました。
それでも皆さん、焦らず、自分のペースで登り切り、 笑顔で奥の院の頂へ。
「暑い夏山を登りきる自信がなかったけど、ここまで来れた」 という声が上がりました。
前半で体力の貯金ができていたこと、 ペースを守って歩けたこと。 その積み重ねが、難所を越える力になりました。


ゴールは山頂ではなく、山登りは“ストーリー”で楽しむ
「奥の院」は標高1,077m、 日本武尊を祀る「男具那社」が鎮座する場所です。
実はこの山、山頂に立つとわかりませんが、遠くから眺めると“とっても美しい円錐形”をしているんです。 古代の人がこの「奥の院」の峰を見て「神様が宿る場所」と感じたのも自然なことだったのです。
そして、今回の旅のゴールは、この「奥の院」の山頂に立つことではなく、 “昔の人が抱いた御岳山への畏敬の念に触れること” にあったのです。それがどこで触れられるのかというと…
行きに通過した「御岳神社」の本殿奥にある「奥の院遥拝所(ようはいじょ)」という場所。ここからは、 先ほどまで立っていた円錐形の峰の「奥の院」の姿を正面に望むことができるんです。

そんな古代の人が抱いた“畏敬の念”に触れる静けさの中で、ふと白い光が揺れました。 そこに咲いていたのは、一輪のレンゲショウマ・・・
まだ時期が早く、群生地ではほとんど咲いていなかった花が、 旅の終わりにそっと姿を見せてくれました。
薄紫の花弁が湿った森の空気の中で静かに浮かび上がり、 「よく歩きましたね」と語りかけてくれているよう・・・
こうした“静かなご褒美”を感じられるのも“ゆっくり、自分ペースで歩いた”からこそ、の結果です。
参加者アンケートより
今回の教室を通して、参加者のみなさんから次のような声をいただきました。
- ペースは自分で決めていいと分かった
- 少しずつ難易度を上げて挑戦したいと思えるようになった
- 自然を満喫する感覚を学んだ
- 長めの急斜面でも登り切れる体力がついていた
- 意識しないと歩くペースが速くなってしまうと気づいた
どの声にも共通していたのは、 “自分のペースで歩くことが、山を楽しむいちばんの近道だった” という気づきでした。
速さよりも、うまさよりも、まずは自分の歩幅に戻ること、その大切さを確認した今回のツアーでした。

次回の「50歳からのゆっくり登山教室」へ
今回の御岳山は、 深い緑、沢の音、信仰の静けさ、歩き方の学び、 そして旅の終わりに咲いた一輪のレンゲショウマ── そのすべてが重なり合い、参加者の方々の“これからの登山”をそっと後押しする一日になりました。
これからも奥多摩をはじめ、関東近郊の“身近で静かな山”を中心に開催していきます。 自分のペースで、心地よく歩く山時間を、一緒に育てていきたいと思います。

適度に体を動かしている人なら、 登山が初めてでも楽しく歩けるコースです。
この時の記録はYAMAPで公開しています。https://yamap.com/activities/49870371


